反イスラム主義の歴史的背景を遡ると、西欧キリスト教世界とイスラム世界の間には1400年以上にわたる軍事・宗教・領土の激突の歴史が存在します。中世の十字軍遠征、オスマン帝国によるコンスタンティノープル陥落や二度にわたるウィーン包囲は、西欧社会の集合的無意識に「東方からの脅威」としての記憶を刻み込みました。
近代に入ると立場は逆転し、欧米列強による中東・北アフリカの植民地支配が始まります。この時代に形成されたオリエンタリズム(東洋を非合理的・野蛮と見なす視線)は、冷戦終結後のサミュエル・ハンチントンによる『文明の衝突』論や、2001年の9.11米同時多発テロ以降の「テロとの戦い」を通じて再活性化されました。
また、神学構造の違いも見逃せません。近代西洋社会がキリスト教との激しい闘争の末に勝ち取った「政教分離(政治と宗教の切り離し)」に対し、イスラム教は信仰・法(シャリーア)・倫理・政治・日常生活が一体不可分となった包括的システムです。「個人の内面にとどまる信仰」を前提とする近代西欧の枠組みと、「社会生活のすべてを規律する規範」であるイスラムの規範意識との間には、構造的な非対称性が横たわっています。