この言葉をポピュリズム政治の核兵器へと変貌させたのが、ドナルド・トランプ氏です。2016年の大統領就任前後から、トランプ氏は演説で「ワシントンのヘドロを抜け(Drain the Swamp)」と繰り返しました。自身の意向に従わない閣僚や官僚、そしてロシア疑惑の捜査を進めたFBIや司法省を公然と「ディープステートの回し者」と糾弾したのです。
トランプ陣営が名指しする「黒幕の正体」とは、具体的には以下のような勢力です。
- 民主党主流派および既成政党のエリート層:長年ワシントンの政治権力を握り続けてきた政治家たち。
- 司法・情報機関の官僚幹部:独立性を盾に大統領の命令に従わないFBIやCIA、司法省のキャリア組。
- ネオコン(新保守主義)や介入主義の外交官:終わりなき対外戦争を肯定し、軍事予算の維持を求める勢力。
- リベラル系の主流メディア(大手マスコミ):トランプ政権の政策を批判的に報道し続けるジャーナリスト。
トランプ氏がディープステートを敵として名指しし続ける理由と政治的目的は明白です。政策の停滞や捜査の手が及んだ際、その原因を「見えない巨大な敵の妨害」に帰着させることで、自身の正当性を守り、支持者の怒りを結集させることができます。敵を具体化するのではなく、あえて実体の曖昧な「ディープステート」という名札を貼ることで、大衆の抱くエスタブリッシュメントへの不満を一手に吸収する高度な政治的レトリックとして機能している側面は否定できません。