生存が確定しているにもかかわらず、なぜ「狗巻棘の死亡説」がこれほど根強くネット上やファンのコミュニティで囁かれ続けたのでしょうか。その背景には、作者・芥見下々氏による緻密かつ意図的なサスペンス演出と、劇中での劇的な描写が重なった経緯が存在します。
死亡説が爆発的に拡散した最大の契機は、単行本16巻に収録された第137話「白髪」での乙骨憂太の衝撃的な発言です。渋谷事変の終息直後、呪術総監部のもとに現れた特級術師・乙骨憂太は、以下のように言い放ちました。
「虎杖悠仁は僕が殺します」
「彼のせいで、狗巻君の腕が落とされた」
この場面において、包帯を巻かれ左腕を失った狗巻の痛々しい姿が一コマだけ描かれたものの、本人の意識の有無や容態の詳細、具体的な生存の明言は一切なされませんでした。さらに、この回を最後に狗巻は単行本約6巻分(期間にして1年半以上)にわたり作中から完全に姿を消すことになります。
当時の読者コミュニティ(5ちゃんねるや知恵袋、Xなど)では、「腕を切断された際のショック死ではないか」「呪言の反動と出血多量で死亡したのを隠しているのではないか」といった悲観的な憶測が相次ぎました。また、乙骨の発言は「虎杖の死刑執行役を引き受けるための偽装(総監部を欺く演技)」であったことが後に判明しますが、種明かしがされるまでの長大な空白期間が、結果として「狗巻死亡説」を既成事実のように広げてしまったのです。