厚生労働省が管轄する雇用保険制度において、早期に安定した職業へ就いた求職者に支給される再就職手当。「もらえるお金はすべてもらうべきだ」と考えるのが自然に思えますが、現場の相談窓口や転職者コミュニティでは、あえて権利を行使しない選択をする人々が確実に存在します。その背景には、制度の構造的な罠ともいえる3つのデメリットが潜んでいます。
第一の理由は、「雇用保険の受給資格(基本手当の残日数)が完全に消滅する」という点です。再就職手当を一度受給してしまうと、前職で長年積み上げてきた被保険者期間と、それに基づいて決定された基本手当の権利はすべて清算されます。もし新しい職場が合わず、試用期間や数ヶ月以内に離職した場合、次の失業手当をもらうための被保険者期間(原則として離職前1年間に通算6ヶ月以上、自己都合の場合は2年間に12ヶ月以上)を満たすことができず、無収入のまま放り出される事態に陥ります。
第二の理由は、「3年以内の再受給禁止ルール」です。雇用保険法に基づき、過去3年以内に再就職手当や常用就業支度手当などの支給を受けた履歴がある場合、どんなに早く次の再就職を果たしても新たな支給対象から除外されます。流動性の高い職種やプロジェクト単位の雇用形態で働く人にとって、この3年のロック期間は将来の機動的なキャリア選択を縛る足枷となり得ます。
第三の理由は、「申請に伴う心理的・事務的コストと会社への露見」です。再就職手当の申請には、採用先企業による「採用証明書」の記入やタイムカード・賃金台帳の写しの提出が義務付けられています。入社早々に人事業務の手を煩わせることへの心理的抵抗や、「この社員は失業保険をギリギリまで活用していたのか」「手当目当てで早期就職したのではないか」といった不要な勘繰りを警戒する求職者が少なくありません。