行政が公表する諸量データには、一般の視点からは直感的に理解しにくい専門的な区分が存在します。これがネット上での不安や誤解を生む最大の温床となっています。
尾原ダムの総貯水容量は60,800千m³、有効貯水容量は31,659千m³に達します。この巨大な器は、あらかじめ「治水(洪水を食い止めるための容量)」と「利水(水道水や農業用水として使うための容量)」に厳密に区分けされています。夏場の集中豪雨や台風の襲来が想定される洪水期には、「夏期制限水位」と呼ばれる運用ルールが適用されます。
つまり、利水のための水はしっかりと55%以上確保しつつ、上部の巨大な空間(約80%以上の容量)をわざと空っぽにして雨を待ち構えている状態です。もし有効容量ベースで貯水率が80%や90%に達していれば、それは「水が豊富で安心」なのではなく、「次の大雨を受け止める余裕がほとんどない危険な状態」を意味します。数字が低いこと自体が、下流域の安全弁として機能している証拠なのです。