「天王寺駅で谷町線から乗り換えようとしたら、完全に方向感覚を失った」――SNSやネット掲示板には、毎日のようにこうした悲鳴が投稿されています。空間認知心理学の知見に照らし合わせると、地下空間で人間が方向を見失う主因は「基準となる地上のランドマークの喪失」と「予期せぬクランク(直角の折れ曲がり)動線」にあります。天王寺駅谷町線構内図を立体的に紐解くと、この2つの悪条件が見事なまでに重なり合っている事実が浮き彫りになります。
最大の構造的欠陥ともいえる要因は、御堂筋線やJRの天王寺駅と谷町線のホームが「直交どころか大きく北西にオフセットした位置」に掘削されている点です。御堂筋線ホームがJR天王寺駅の南西地下、あべのハルカス寄りに位置しているのに対し、谷町線ホームはそこから北東に大きく外れた谷町筋の地下深くに埋設されています。この2つの地下鉄駅は「天王寺」という同一駅名でありながら、物理的には数百メートル離れた別駅に近いレイアウトなのです。
さらに旅行者や不慣れな利用者を混乱させるのが、地下街「あべちか」の介在です。谷町線の改札を出ると、視界には駅の連絡通路ではなく商業施設が広がり、天井の案内サインもJR、近鉄、御堂筋線、あべのハルカス、天王寺公園(てんしば)など四方八方を指し示します。人は視界が開けた瞬間に情報の過多に圧倒され、進行方向を見失う「選択肢過多の麻痺」に陥ります。案内板の矢印通りに直進した結果、人混みの激しい地下街の中央を横断させられ、体感距離が何倍にも伸びてしまうのが、迷宮化の真相です。