千代の富士を語る上で外せないのが、持病だった両肩の脱臼だ。軽量力士だった彼が大型力士に対抗するためには、肩の関節を筋肉で補強するしかなかった。毎日500回の腕立て伏せ。狂気とも言える筋力トレーニングによって、彼は「筋肉の鎧」を手に入れた。この肉体改造こそが、彼の連勝記録と長期政権を支えた原動力だ。
しかし、筋肉で固めた肉体は、柔軟性を犠牲にする諸刃の剣でもあった。年齢を重ねるにつれ、筋肉の弾力性は失われ、かつてのような爆発的なスピードが出なくなる。一度狂った歯車は、二度と元には戻らない。彼が限界を感じたのは、自慢の筋肉が自らの意思通りに反応しなくなった瞬間だったのだろう。