一般層の一部が「歌が下手」と切り捨てる一方で、なぜ細野晴臣氏をはじめとする音楽界の重鎮やスタジオミュージシャンたちは、彼女に最大級のリスペクトを払い続けるのでしょうか。その答えは、森高千里のドラム演奏とリズム感という、歌唱の根幹を支える身体性にあります。
森高千里は単なるフロントマンではなく、レコーディングで自らドラム、ピアノ、ギター、ベースを演奏するマルチプレイヤーです。特に彼女のドラミングは、正確無比なタイム感とタイトなスネアの鳴りで知られており、プロドラマーからも「一切のヨレがないメトロノームのようなタイム感」と高く評されています。
このリズム感がボーカルにもそのまま反映されています。彼女の歌唱は、音符の「発音の立ち上がり」と「語尾の切り際」が16分音符単位で正確にコントロールされています。日本のポップスにおいて、メロディの音程を滑らかに繋ぐ歌手は星の数ほどいますが、ビートのグリッドに完璧に乗せて言葉を打ち込めるボーカリストは極めて希少です。
また、彼女が手掛けた数々の歌詞——『私がオバさんになっても』や『気分爽快』に見られる、日常会話をそのままメロディに落とし込んだ字余り気味のフレーズを、グルーヴを損なわずに歌いこなす技術は、卓越したリズムコントロールなしには成立しません。プロが絶賛しているのは、装飾的な「美声」ではなく、音楽の屋台骨としての「グルーヴを生み出す身体能力」なのです。