ナナチが人ならざる姿へと変貌した背景には、深界五層「前線基地(イドフロント)」で行われた非人道的な人体実験が存在します。ナナチが成れ果てとなった理由は、六層からの上昇負荷――すなわち「人間性の喪失もしくは死」という絶対の呪いを克服するための実験台にされたことでした。
ここで鍵となるのが、ボンドルドが解き明かそうとした「祝福の秘密」です。二重構造のゴンドラを用いた昇降実験において、ボンドルドは「呪いの押し付け」を企てました。六層の呪いをミーティ側に一方的に押し流すことで、ナナチには呪いではなく「アビスの祝福」のみが定着したのです。その結果、ミーティが無残な肉塊へと崩壊する代償として、ナナチは知性を保ったまま、柔軟な毛並みと長い耳を持つ獣人のような成れ果てへと昇華しました。
ファンの間で語り草となっている「ナナチがいい匂いである理由」も、この祝福のメカニズムと無縁ではありません。リコやレグが「香ばしいキャラメルのような匂い」「日なたの匂い」と形容する芳香は、成れ果て特有の分泌物や毛並みによるものですが、本質的には「アビスの祝福そのものが受肉した証」と捉えることができます。呪いをすべて引き受けたミーティの異形と、祝福を一身に浴びて芳香を放つナナチの姿は、深淵の残酷な二面性を残酷なまでに美しく象徴しています。