採卵時には一見して透明に見えた卵が、なぜ1〜2日程度で真っ白に変色してしまうのでしょうか。この現象には、精子を受け入れられなかった卵細胞の生物学的な崩壊プロセスが関与しています。
正常な受精プロセスを経た卵は、精子の進入を合図に細胞内シグナルが作動し、卵門を閉ざすとともに卵膜を硬化させます。しかし、受精が成立しなかった場合、生体防御機能が働かないまま卵内部の細胞活動が停止し、いわゆる「壊死(ネクローシス)」が始まります。メダカ無精卵の白濁理由は、細胞膜の破綻によって外界の飼育水が卵内に流入し、内部に蓄えられていた高濃度のタンパク質や脂質が水和・変性(白濁凝固)を起こすためです。卵の白濁は、生命活動が完全に断たれた明確な物理的シグナルにほかなりません。
そして、この死滅した有機物は、水中に常在する糸状菌(ミズカビ類:サプロレグニア属など)にとって格好の栄養源となります。無精卵をそのまま放置すると、わずか24〜48時間で綿毛状の菌糸が卵全体を覆い尽くします。恐ろしいのは、菌糸が勢力を拡大する過程で隣り合う健全な有精卵にまで触手を伸ばし、呼吸を阻害して窒息死させる点です。これが飼育者を悩ませるメダカ水カビ病の感染リスクの正体であり、1つの無精卵を放置したばかりに、塊になっていた数十個の卵が一網打尽に全滅する連鎖死を引き起こします。