なすの揚げ浸しにおける最大の難所は、加熱によるナスの褐変(色のくすみ)です。ナス特有の美しい紫色は「ナスニン」と呼ばれるポリフェノール色素によるものですが、ナスニンは酸化酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)の働きによって容易に茶褐色へ変色してしまいます。
栗原はるみ氏が指南するなす揚げ浸し色止めコツは、極めて明確かつ科学的です。
第一に、切り込みを入れた後の「完全な水気取り」です。切った直後のナスを水にさらしてアク抜きをするレシピが多く見受けられますが、栗原流では水にさらさず、包丁を入れたらすぐにペーパータオルで表面の水分を徹底的に拭き取ります。余分な水分が油の温度を急低下させ、色の濁りを引き起こす最大の原因だからです。
第二に、油の温度を180℃〜190℃の高温に保ち、必ず「皮目を下にして」油に投入することです。ナスニンを分解する酵素は80℃以上の高温に触れると一瞬で失活します。高温の油膜で皮の表面を素早くコーティング(油コーティング)することにより、色素の流出を防ぎ、色鮮やかな紫色を強固に固定します。揚げ時間は皮目を約1分、裏返して果肉側を約30秒〜1分という短時間勝負。皮を長く油に浸しすぎない引き算の技術が、透明感ある仕上がりを支えています。