『家、ついて行ってイイですか?』を巡る最大の論争点、それは「あまりにドラマチックすぎる展開はやらせではないのか」という疑念です。過去の放送では、10年前に病気で苦しんでいた際に救われ現在はモモンガブリーダーとして生きる男性や、山手線を歩いて一周する女性と借金700万円を抱える男性の純愛物語など、フィクションの脚本家ですら思いつかないような特異な人生が次々と映し出されてきました。「あんな都合よく面白い人物に深夜の駅前で出会えるはずがない」と疑われるのも無理はありません。
しかし、番組関係者への取材や制作現場の実態を精査すると、そこには泥臭いまでの「確率の壁」が存在します。番組ディレクターが明かすところによると、終電後の駅前で声をかけ、実際に同行を承諾してくれる確率はわずか1〜2%未満。一晩に何十人、時には数百人に声をかけても1件も成立せず、始発を迎えて途方に暮れるディレクターの姿は現場では日常茶飯事です。テレビ東京の制作陣は、街頭取材の際に『番組スタッフは腕章と身分証を提示しており、金銭を要求する事は無い』というテロップを画面上に明記しています。これは街頭でのトラブル防止だけでなく、取材プロセスが完全な飛び込み交渉であることを示す客観的な証拠でもあります。
仕込みやタレントの起用を行わない理由は、番組の制作倫理だけでなく、コストとリスクの観点からも説明がつきます。もし一度でも意図的な劇団員の起用や台本の存在が明るみに出れば、長年築き上げたテレビ東京の看板ドキュメンタリーのブランド価値は一瞬で失墜します。数千時間におよぶ過酷な街頭ロケという「途方もない人海戦術」によって、確率論的にドラマを引き当てていることこそが、この番組が放つ圧倒的なリアリティの源泉なのです。