「うまか棒」の歴史が幕を開けたのは、日本の食文化が急激に豊かになりつつあった1979年のことです。当時、乳業大手の明治(旧・明治乳業)が開発したこの商品は、スティックタイプのラクトアイスにチョコレートをコーティングし、表面に粗く砕いたナッツをたっぷりとまぶした贅沢な仕立てで一世を風靡しました。
当時としては画期的だった「ナッツ×チョコ×アイス」の三重奏は、単なる冷菓の枠を超えてプレミアム感あふれるおやつとして定着。1本入りの単品販売から、家庭の冷凍庫に常備されるファミリー向けのマルチパック(箱入り)まで幅広く展開され、40年間にわたる超ロングセラーとして愛され続けました。しかし、2019年をもって静かにその歴史にピリオドが打たれたのです。
ファンを愕然とさせたうまか棒アイス販売終了理由について、明治側が公表した背景や食品業界の構造変化を取材・分析すると、主に3つの構造的要因が浮かび上がってきます。
第1の要因は、世界的な原材料価格の高騰です。うまか棒の核となっていたクラッシュアーモンドやピーナッツ、コーティングチョコに使用するカカオ豆、そして乳原料は、2010年代半ばから国際相場の上昇が続いていました。低価格帯を維持しなければならない大衆アイスにとって、贅沢にナッツを使用するレシピは原価率を圧迫する最大の要因となっていたのです。
第2の要因は、マルチパック市場における棚の奪取競争です。アイスクリーム市場では、1990年代以降に個食化と高級化が進み、1本あたり数十円〜100円前後で楽しめる箱アイスの売り場スペースは限られていきました。各メーカーが主力ブランドへの経営資源集中を進める中で、競合商品とのパイの奪い合いが激化したことも大きな影響を与えました。
第3の要因は、製造設備の老朽化と生産ラインの統廃合でした。発売から40年が経過し、生産効率の向上と安全基準の刷新を図る過程で、明治は看板商品である「エッセル スーパーカップ」や「明治 エッセル」シリーズをはじめとする主力製品へ生産能力を集中させる経営判断を下しました。こうした複合的な要素が絡み合い、2019年に惜しまれつつもうまか棒アイス製造終了の真相へと至ったのです。