ハリウッドのメジャースタジオが契約解除に走った暗黒期、唯一彼の手を放さなかったのがファッション界の巨人、ディオールだった。「ソヴァージュ(Sauvage)」のアンバサダーとして交わされた前代未聞のメガディールは、マーケティング史における最大の賭けであり、そして最大の勝利となった。
世論が割れ、キャンセルカルチャーの嵐が吹き荒れる中でも、香水のボトルは飛ぶように売れ続けた。消費者が求めていたのは、無菌室で作られたような清廉潔白な優等生ではない。幾重ものシワとタトゥーを刻み、ギターを掻き鳴らす、決して飼いならされない男のロマンだったのだ。商業主義に屈しなかったこの契約は、結果として彼のアイデンティティをより強固なものへと昇華させた。