歯科矯正によって顔つきが大きく変わる最大の要因は、前歯の傾斜や位置の移動に伴って下顔面(鼻下からオトガイにかけての領域)の軟組織が力学的に再配置される点にあります。人間の顔において、唇の突出度合いやオトガイ(下顎の先端部)の立体感は、その下にある歯列と歯槽骨によって物理的に支えられています。出っ歯(上顎前突)や上下顎前突による、いわゆる「口ゴボ」の状態では、前歯が唇を外側へと強く押し出しているため、口元がもっこりとした印象になりがちです。
歯列矯正によって前歯群が適正な角度で後方へ下がることで、押し出されていた口唇が内側に引き込まれます。アメリカの矯正歯科医ロバート・リケッツが提唱した「Eライン(エステティックライン)」――鼻の先端部とオトガイ部を結んだ基準線において、日本人の成人女性では上唇がライン上またはわずかに内側、下唇がラインに軽く接する位置が理想的な横顔とされています。前歯の後退によってこのプロポーションが整うと、それまで埋もれていた顎先のラインがシャープに浮かび上がり、劇的な「横顔美人」への変化がもたらされます。
変化は横顔のプロファイルだけにとどまりません。噛み合わせが不正な状態では、咀嚼筋(特に側頭筋や咬筋)に偏った負荷がかかり、エラの肥大や下顔面の横幅の広がりを誘発しているケースが多々見られます。矯正治療によって正しい咬合が構築されると、咬筋の異常な緊張が解けて筋肉の過剰な張りが鎮静化します。その結果、フェイスラインの「余白」が削ぎ落とされたようにすっきりと整い、正面から見た際の輪郭の引き締まりへと結実します。
さらに見逃せないのが、口元の締まりと表情筋の連動です。前歯の突出が解消されると、無理に口を閉じようとしてオトガイ部に生じていた「梅干し状のシワ」が消失します。口輪筋への余計な負荷がなくなることで、笑ったときに上唇が自然なアーチを描き、いわゆる「スマイルライン」が美しく整います。口元の違和感が消えることで視線が自然と目元へ誘導される現象こそが、他者に「垢抜けた」「別人のように可愛くなった」と認識させる心理的トリックの正体です。