「人間は本当にこれだけの重量を骨と筋肉で支えられるのか」――。ベンチプレスの世界記録を語る上で、まず押さえるべきは「ノーギア(Raw)」と「フルギア(Equipped)」という根本的なルールの違いです。
装飾を排し、リストラップとベルトのみを着用して行われるノーギア部門の男子世界記録保持者は、アメリカのジュリアス・マドックスです。彼は2026年に355kg(782.6ポンド)を公式に成功させ、自らが持つ世界記録を塗り替えました。マドックスがバーベルを押し切った瞬間、会場は割れんばかりの地鳴りのような歓声に包まれました。成人したオスのヒグマや小型乗用車並みの質量を、自身の肉体だけで持ち上げる姿は、まさに生ける重機と呼ぶにふさわしい衝撃を世界に与えました。
一方、硬質な特殊繊維で作られたベンチシャツを着用するフルギア部門では、さらに別次元の数字が刻まれています。アメリカのジミー・コルブは、マルチプライ(多層)ギアを駆使し、2026年から2026年にかけて驚愕の612.35kg(1350ポンド)を押し上げる歴史的快挙を成し遂げました。
かつて医療・運動生理学の専門家からは「人間の骨格や胸郭の物理的強度からして、500kgのバーベルを受け止めれば内臓が破裂し肋骨が粉砕するため絶対に不可能」と断言されていました。しかし、2013年にポール・タイニー・ミーカーが人類史上初めて500kgの大台を突破。その限界論を過去のものとし、現代ではついに600kgの壁すら突破されたのです。