水産市場を取材すると、一般消費者の常識と現場のプロの評価との間に大きな乖離が存在することが浮き彫りになります。その代表格が「天然魚は養殖魚より常に優れている」という根強い天然信仰です。
豊洲市場の老舗仲卸関係者は、取材に対して次のように現場の実態を明かしています。
「12月の天然寒ブリでも、海流の蛇行やエサの獲れ高によって、身が痩せて脂が乗っていない『ヤセ』と呼ばれる個体が一定数混ざります。天然という看板だけで高いお金を払っても、脂質が8%程度しかないパサパサのブリに当たるケースはある。一方、近年の養殖技術(特に鹿児島や愛媛などのブランド養殖ブリ)は、水温管理と脂質のコントロールが徹底されており、冬場は安定して20%前後の上質な脂質を維持している。調理法によっては、下手な天然物より養殖の上位ブランドを選んだ方が満足度が圧倒的に高いのが現実です」
また、トラフグに関しても同様の誤解が見受けられます。天然トラフグの産地として知られる下関ですが、実際には下関は「集散・加工地」としての歴史的ブランドであり、水揚げ自体は遠州灘や若狭湾、九州沿岸など多岐にわたります。さらに、フグは水揚げ直後よりも、神経締めにしてから2〜3日寝かせてイノシン酸を最大化させた熟成個体こそが最も旨いとされています。市場の流通構造や調理科学を理解していないと、「獲れたて=一番美味い」という短絡的な思い込みで、本来のポテンシャルを逃す結果につながります。